Column
最近、SDGsという言葉を聞く機会がどんどん増えてきました。大学のような高等教育はもちろん、小学校や中学校など初等教育の中でも年々、重視されつつあります。今回から2回に分けて「SDGs」をテーマに、世界の学校教育との関係について取り上げます。
「SDGs」について、一度も聞いたことがないという人は少なくても、正確に説明できるという人は少ないのではないでしょうか。かくいう私も、あやふやな理解をしている部分もあります。
「SDGs」については、外務省が発行しているパンフレットに、このように紹介されています。
SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)は、「誰一人取り残さない(leave no one behind)」持続可能でよりよい社会の実現を目指す世界共通の目標です。2015年の国連サミットにおいてすべての加盟国が合意した「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の中で掲げられました。2030年を達成年限とし、17のゴールと169のターゲットから構成されています。
例として、4番と13番を紹介します。
ゴール:すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯学習の機会を促進する
ターゲット(10個中、2つを抜粋):
ゴール:気候変動とその影響に立ち向かうため、緊急対策を取る
ターゲット(5個中、1つを抜粋):
このように、各ゴールを達成するために細分化されたターゲットが設定されています。
Sustainable Development Report というものが毎年発表されています。各ゴールの達成度合いを数値化して、国ごと・エリアごとのSDGs達成度ランキングが発表されています。
The Sustainable Development Report 2020 tracks the performance of all 193 UN Member States on the 17 Sustainable Development Goals.
dashboards.sdgindex.org
2020年のデータで、日本は17位です。これを高いと捉えるか低いと捉えるかは、人によって異なりそうです。
私自身は、このランキングに対して思うことが2点あります。ひとつは決して低くはないということ。もうひとつは、表面的なデータを鵜呑みにしてはいけないということです。順を追って見ていきましょう。
見てのとおり、トップ10はヨーロッパの国が占めており、中でもトップ3は北欧諸国が独占しています。2020年のデータでは15位までがヨーロッパの国です。16位がニュージーランド、17位が日本です。日本はアジアの中ではNo.1のランキングのようです。
SDGsは世界全体で協力して達成することが趣旨です。国同士で比較競争することにあまり意味はないかもしれませんが、「アジアNo.1」という評価自体は、悲観しすぎる結果ではないという印象を受けました。
一方で、表面的なデータを鵜呑みにしてはいけないということも感じさせられました。このレポートは、各国ごとにどのようにスコアをつけたのか「基準と評価点」が明記されています。
たとえば日本は、このような評価を受けています。
「1番:貧困をなくそう」「4番:質の高い教育をみんなに」に関しては、100点満点に近い評価を受けています。
ここで注意が必要な点は、採点の基準についてです。たとえば「1番:貧困をなくそう」の採点基準の一つは、「1日に使えるお金が3.2$ 以上ある人の割合」です。 日本では99.3%以上の人が当てはまるようであり、この項目に関しては高いスコアを取っています。
しかしながらご存知のとおり、日本国内においても「相対的貧困」によって教育機会が十分に確保できていない家庭はたくさんあります。「SDGs達成度が高い = 課題がまったくない 」とは限らない点には注意が必要です。
SDGsは、先進国だけでなく「世界共通」の目標であるため、先進国からすると満点に近いスコアを取りやすいゴールが複数あります。ランキングトップ10の他の国のレポートも見たところ、やはり「1番:貧困をなくそう」「4番:質の高い教育をみんなに」の2つは、満点に近いスコアを獲得している国ばかりでした。
また、多くの先進国が共通してスコアが低いのが、「13番:気候変動とその影響に立ち向かうため、緊急対策を取る」です。意外にも、SDGs達成度ランキング1位のスウェーデンが、アフリカ諸国よりもスコアが低いのです。
これも実は、このランキングの評価指標が影響しています。たとえば「CO2を伴うエネルギーの割合」が指標の一つです。技術が進んでいない国では、CO2の排出が少ないので、たとえばアフリカのマラウィーは「13番:気候変動とその影響に立ち向かうため、緊急対策を取る」の評価がほとんど満点です。
このように、「何を基準にランキングをつけているのか?」まで知った上で資料を読み込まないと、表面的なデータに騙されてしまうことがあるので注意が必要です。
データの活用の注意点も踏まえると、物価や経済状況が似ている国と比較することは新たな発見につながりそうです。
たとえばランキング上位の国の中で、物価や経済、人口などの条件が比較的近いフランスのデータを見てみましょう。
円グラフの形は概ね似ていますが、相違点としては2点見つかります。
「16番:平和と公正をすべての人に」は、日本は高いスコアを取っています。とくに日本は、治安のよさが評価されているようです。
一方で、ヨーロッパ諸国と比べると 低さが目立つのは「5番:ジェンダー平等を実現しよう」です。たとえば指標の一つが「国会議員の女性の割合」なのですが、この数値はヨーロッパ諸国と大きな差があります。日本の国会議員の女性の割合は14.4%で、世界全体で見ても147位に当たります(2020Inter-Parliamentary Union調べ)。
この課題は日本にとっても重要で、逆にいうと大きな伸びしろがありそうです。
次回は「世界各国の教育機関での取り組み」を紹介します。先ほど課題としてあげた「国会議員の女性の割合」において46%を誇り、昨年は世界最年少の34歳の女性大統領が誕生したフィンランドの「ジェンダー教育」についても紹介するので、楽しみにしていてください。
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